精巣腫瘍(精巣がん)

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精巣腫瘍(精巣がん)とは

精巣は男性の股間の陰嚢(いんのう)と呼ばれる袋の中にある卵形をした臓器です。左右に1個ずつあり、睾丸(こうがん)とも呼ばれています。精巣は精子をつくる、男性ホルモンを分泌するといった重要な役割を担っています。その精巣にできる悪性腫瘍が精巣腫瘍です。「精巣にしこりを触れる」、「精巣が腫れてきた」といった症状を契機に発見されます。しかし、痛みや発熱といった自覚する症状がでにくいことや、精巣腫瘍自体の進行が速く転移しやすいため、発見が遅れて進行した状態で診断されることもあります。
日本の精巣腫瘍患者数は男性100万人あたり10〜15人と比較的少ないですが、ほかのがんと異なり20~30歳代の若い男性に多く発生するという特徴があります。実際、20歳代から30歳代の男性において最も発生頻度が高い固形がん(白血病などの血液がん以外)です。
精巣腫瘍の原因は現段階ではっきりと解明されていませんが、「停留精巣」があると発生率が高くなることや、何らかの遺伝的因子が関与していることが分かっています。
精巣腫瘍に対する治療の基本は腫瘍のある精巣を切除することです。切除した腫瘍の病理組織学的診断と術後の腫瘍マーカーの推移によって抗がん剤治療や放射線治療の追加を行うこともあります。

精巣腫瘍の症状

精巣にしこりを触れる、精巣が腫れてきたといった症状で発見されます。しかし、痛みや発熱といった自覚する症状がでにくいことや、精巣腫瘍自体の進行が速いため、かなり進行した状態にならないと気付きにくいといった特徴があります。
精巣腫瘍は比較的短期間で転移をきたしてくるため、転移によって生じる症状で発見されることもあります。転移した部位によって症状は異なりますが、腹部リンパ節に転移がある場合には腹部のしこりを触れる、腹痛や腰痛などといった症状を自覚します。肺に転移がある場合には息切れや咳といった呼吸器症状を自覚します。

精巣腫瘍の原因

精巣腫瘍の原因は現段階ではっきりと解明されていませんが、発生率を高める危険因子として「停留精巣(精巣が陰嚢内に納まっていない状態)」が有名です。停留精巣のある方が精巣腫瘍をきたすリスクは正常人よりも2~10倍高くなります。また、ほかの危険因子として「家族内に精巣腫瘍の方がいる場合」は4~8倍、「反対側の精巣に腫瘍があった場合」は25倍のリスク上昇があると報告されています。
ほかのがんと異なり若い男性に多く発生するという特徴もあります。精巣腫瘍の発生率を年齢別にみると「5歳以下の小児期」と「20歳代後半から30歳代の青年期」に発生するという2つのピークがあります。また、すべての精巣腫瘍患者のうち約3分の2が40歳未満に発生します。

精巣腫瘍の診断

触診

小さな腫瘍であればやわらかい正常の精巣の中に硬いしこりとして感じます。腫瘍が大きくなって精巣内をほとんど占めるようになると精巣全体が硬いしこりとして感じられます。自分で触ってみて左右の精巣の大きさや硬さの違いなどから異常を発見することも可能です。

腫瘍マーカー

腫瘍マーカーとは腫瘍細胞がつくり出す蛋白や酵素であり、腫瘍発生にともない血液中の腫瘍マーカーが上昇してきます。精巣腫瘍の診断において腫瘍マーカーは非常に有用です。精巣腫瘍の腫瘍マーカーには「AFP(αフェトプロテイン)」、「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)およびhCG-β」、「LDH(乳酸脱水素酵素)」などがあります。これらの腫瘍マーカーは診断のみならず治療の効果判定にも用いることができます。ただし、すべての腫瘍で腫瘍マーカーが上昇してくるわけではないので注意も必要です。

腹部超音波検査

X線を使わず痛みも伴わないので健康診断や人間ドックなどの初期検査でよく行われます。一般的には精巣の実質内に球状の腫瘍を確認することができます。

CTスキャン

X線を使って身体の断面を撮影します。腫瘍の状態や周辺臓器への広がり、肺やリンパ節への転移の有無などを調べることができます。精巣腫瘍は進行が速く、転移しやすいがんであるため非常に重要な検査となります。
診断精度に優れた検査ではありますが、造影剤にアレルギーのある方や腎機能障害のある方には行うことができません。

MRI

MRIはX線を使用せずに強い磁石と電磁波を使って身体の断面を描写します。質的診断に優れているため超音波検査でも診断がむずかしいような場合には有効です。
造影剤アレルギーのある方に対しても行うことができますが、磁力を用いた検査であるため心臓ペースメーカーなど体内に金属が入っている方には行うことができません。

必要に応じて骨シンチグラフィーやFDG-PETスキャンといった検査を行うこともあります。

精巣腫瘍の病期(ステージ)

精巣腫瘍の多くは精巣の精母細胞から発生します。できたばかりの早期がんは精巣内にとどまっていますが、進行するとともにリンパ節、肺、肝などへ遠隔転移をきたします。
このがんの進行の程度を病期(ステージ)といいます。

病期にはローマ数字が使われて、I期、II期、III期と分類されます。数が大きくなるほどがんが進行していることを示します。

I期  転移がない

II期 横隔膜以下のリンパ節にのみ転移がある

  • IIA:後腹膜転移巣が5cm未満
  • IIB:後腹膜転移巣が5cm以上

III期 遠隔転移がある

  • IIIO:腫瘍マーカーが陽性であるが、転移巣不明
  • IIIA:横隔膜以上のリンパ節に転移がある
  • IIIB:肺に転移がある
    • B1:片側の肺の転移が4個以下かつ2cm未満
    • B2:片側の肺の転移が5個以上または2cm以上
  • IIIC:肺以外の臓器にも転移がある

精巣腫瘍の治療

がんの種類や進行の程度によって治療方法が異なりますが、基本的には腫瘍のある精巣を「外科的手術」で切除します。切除した腫瘍の病理組織学的診断と術後の腫瘍マーカーの推移によって「抗がん剤治療」や「放射線治療」の追加を行います。
精巣腫瘍は比較的抗がん剤が良く効く腫瘍であるため、抗がん剤治療によって約70%は転移腫瘍が消失します。小さくなって外科的切除が可能となった場合には「転移腫瘍の外科的手術」を行うこともあります。
治療方法の詳細についてお聞きしたいことがあれば遠慮なくご相談ください。

精巣や陰嚢が腫れる病気

精巣腫瘍以外の病気でも精巣や陰のうが腫れることがあります。

陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)

精巣の周囲に液体がたまって陰嚢が腫れた状態をいいます。精巣、精巣への血管および精管を被っている鞘膜(しょうまく)という袋に液体が貯留します。痛みはなく、弾力のある腫れ方をします。
治療方法は外科的手術が必要で、液体がたまってしまう鞘膜を切除します。
小児の場合は自然に治癒してしまうこともあります。

精巣捻転(せいそうねんてん)

精巣が陰嚢の中で回転してしまい、精巣への血管がねじれて血流が遮断されてしまうために痛みや腫れを自覚します。精巣への血流が長時間遮断されてしまうと精巣が壊死(えし)してしまうので注意が必要です。
精巣が成長してくる思春期に多くみられ、夜中寝ているときに発症することが多いのが特徴です。
治療方法は外科的手術です。手術の方法は、ねじれを解除して血流を回復させた後に精巣を陰嚢内に固定します。ただし、精巣がすでに壊死している場合には精巣を摘出しなければなりません。
ねじれの程度にもよりますが、発症から6~8時間以内にねじれの解除を行わなければ精巣が壊死してしまうため、緊急手術になることが多いです。

精巣上体炎

精巣の横にある精巣上体(副睾丸)に炎症が生じて腫れてくる病気です。尿道から細菌が入りこみ、精管を伝わって精巣上体にまでおよぶと発症します。痛みや発熱をともなって急激に発症することが多いですが、症状に乏しく痛みのないしこりを触れるようなこともあります。
治療方法は感染が完全に治るまで抗菌薬の投与を行います。

精巣炎

精巣に炎症がおこって腫れる病気です。流行耳下腺炎(おたふく風邪)にともなって発症するものが代表的です。成人になってからおたふく風邪に感染した場合、約20%に精巣炎を合併します。痛みをともなって精巣が腫れてきます。

鼠径ヘルニア

鼠径管(そけいかん)という精巣への血管が通るトンネルから腸の一部が陰嚢内に飛び出してしまう病気です。いわゆる「脱腸(だっちょう)」と呼ばれています。飛び出した腸を押しこむことによって一時的に腫れを治すことは可能ですが、ヘルニア嚢(のう)という袋が残っている限り再発を繰り返します。
治療方法は外科的手術です。手術の方法はヘルニア嚢の出口を縛り、鼠径管を補強します。
飛び出してしまった腸管が鼠径管にはまりこんで腹腔内に戻れなくなると腸管への血流が遮断されて腸管の壊死や穿孔をきたします。
そのような場合は致死的な状況にもなりかねないので緊急手術が必要です。

精巣腫瘍は早期発見・早期治療を行えば完治が目指せる病気です。「精巣にしこりを触れる」、「精巣が腫れてきた」と思ったらお気軽にご相談ください。

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泌尿器科の主な疾患と治療法・検査