ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法

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重症の過活動膀胱患者のための最新治療法

過活動膀胱とは「急に我慢ができない強い尿意(尿意切迫感)」を感じることを主な症状とする病気です。正常な膀胱機能は脳からの指令によってコントロールされておりますが、過活動膀胱では膀胱がコントロールを失ったような状態となり、少量の尿がたまっただけでも膀胱が過剰に反応してしまい、我慢できないような強い尿意を急に感じるようになります。そのため「トイレに何回も行く(頻尿)」、「夜中トイレに何度も起きる(夜間頻尿)」、「急に尿がしたくなってトイレまで我慢できずに漏れてしまう(切迫性尿失禁)」といった症状を伴うこともあります。
これらの症状は、日常生活や仕事、対人関係、社会活動にも大きな影響を与え、特に切迫性尿失禁を伴う患者さまにおいては生活の質(QOL)の低下が著しく、精神面へ与える影響も大きいとされています。
過活動膀胱の治療には「薬物治療」と「行動療法」があり、これらを組み合わせて治療を行っていきます。しかし、薬物治療の効果は70~80%であり、しっかり内服治療をしていても満足いくまで症状が改善しない重度の過活動膀胱患者さんがおられます。
また、口が乾く、便秘、残尿量が増えるといった副作用のために薬物治療を継続できないような場合もあります。
このような重症の過活動膀胱の患者さまに対して、2020年に保険適応になったのが「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」です。

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法について

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法図解

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は2000年に初めて海外で報告され、その高い有効性と安全性から欧米を中心に普及している治療方法です。
毒素と聞くと不安になる方もいるかもしれませんが、「A型ボツリヌス毒素(ボトックスⓇ)」には、コリン作動性神経の神経終末に結合し、筋肉を収縮させるアセチルコリンの放出を止めることによって筋肉を緩める作用があります。

過活動膀胱の治療では、ボツリヌス毒素を膀胱の筋肉に注射します。膀胱の筋肉の過敏状態が抑えられることで過活動膀胱によるさまざまな症状が改善されます。
治療の実際は、尿道から膀胱内に入れた内視鏡で観察しながら膀胱の筋肉に専用の細い注射針を用いてボツリヌス毒素を100~200単位、20~30箇所に分けて注入します。手術時間はわずか10~20分程度です。入院の必要はなく、日帰りでの治療が可能です。
通常、治療効果は治療開始後2~3日であらわれ、4~8ヶ月にわたって持続します。効果が不十分な場合や薬の効果が弱まって症状が再発してきた場合には、前回投与より3ヶ月以上経過していれば再投与することも可能です。

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の副作用

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は、安全性の高い治療方法ではありますが、以下のような副作用が報告されています。

尿路感染症(5%程度)

治療後数日間、感染予防のために抗菌薬を内服していただきます。しかし、膀胱内に細菌が侵入することで膀胱炎や腎盂腎炎などをきたす可能性があります。

排尿困難、残尿の増加(5~9%)

尿を出しきれずに膀胱内に尿が残ってしまう副作用です。高齢者に発生しやすい傾向があります。診察の際、定期的に残尿量を測定させていただき、残尿量が多くなるような場合には一時的に自己導尿を行っていただく可能性があります。

肉眼的血尿(2%程度)

膀胱内に薬を注射することで血尿がでることがあります。通常は数日で自然におさまります。

薬によるアレルギー反応(1%以下)

以下の条件に当てはまる方は当治療を受けることができません。

  • 尿路感染症にかかっている方
  • 尿を出し切れない重度の症状があるのに、自己導尿を行っていない方
  • 全身性の筋力低下を起こす病気(重症筋無力症、ランバート・ イートン症候群、筋萎縮性側索硬化症など)がある方
  • 妊娠中あるいは授乳中の方、妊娠している可能性のある方
  • A型ボツリヌス毒素治療を受け、発疹などのアレルギーを生じることがわかっている方
  • 自己導尿が必要になった場合に、導尿の実施に同意いただけない方

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