前立腺肥大症
前立腺肥大症とはその名の通り「前立腺が肥大してくることで排尿に関わる様々な症状が引き起こされる病気」です。前立腺が肥大してくる原因は男性ホルモンなどの性ホルモン環境の変化が関与しています。前立腺肥大症の頻度は加齢とともに増えていき、60歳以上の男性では半数以上の方が前立腺肥大症で悩んでいるともいわれています。
前立腺とは
前立腺とは男性だけにしかない臓器であり、前立腺液といわれる精液の一部を作り、精子に栄養を与えたり、精子を保護する役割を担っています。また、前立腺は膀胱の下に尿道を取り囲むように存在しているため(下図参照)、前立腺が肥大してくると尿道や膀胱が圧迫されて排尿に関わる様々な症状が引き起こされます。正常な成人男性の前立腺の大きさはクルミ大(約3×4cm)といわれていますが、前立腺が肥大してくると鶏卵やみかんの大きさになってしまうこともあります。
前立腺は尿道の周囲にある「内腺」とその周りにある「外腺」に分けられますが、前立腺肥大は尿道周囲にある内腺から発生し、前立腺がんは外腺に発生してきます。
前立腺肥大症の原因
前立腺肥大の原因は現時点ではまだはっきりと解明されていません。しかし、中高年になって男性ホルモンを含む性ホルモン環境が変化してくると前立腺が肥大します。
前立腺肥大症の頻度は加齢にしたがって高くなり、特に50歳以降に急激に増加します。組織学的な前立腺肥大は30歳代から始まって、50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳では90%にみられます。しかし、そのすべての方に治療を必要とする症状がみられるわけではありません。前立腺の肥大と治療が必要となるような症状を伴う、いわゆる「前立腺肥大症」の割合はその1/4程度といわれています。
前立腺肥大症は肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症、メタボリック症候群との関係も指摘されています。野菜、穀物、大豆などに多く含まれるイソフラボノイドは前立腺肥大症の発症を抑える効果があります。
前立腺肥大症の症状
前立腺肥大症では「排尿症状(尿を出すことに関連した症状)」、「蓄尿症状(尿をためることに関連した症状)」、「排尿後症状(排尿した後に出現する症状)」といった様々な症状がみられます。
- 排尿症状
「排尿困難」とは尿が出にくい症状の総称ですが、「尿の勢いが弱い」、「尿が出始めるまでに時間がかかる」、「尿線が分かれて出る」、「排尿の途中で尿が途切れる」、「尿をするときに力まなければならない」などといった症状があります。
- 蓄尿症状
「頻尿」については一日に何回以上という定義はありませんが、日中に8回以上の排尿がある場合は「昼間頻尿」、就寝後2回以上排尿のために起きてしまう場合は「夜間頻尿」と考えられます。「尿意切迫感」は急に我慢できないような強い尿意を感じることをいいます。尿意切迫感があり頻尿を伴うものを「過活動膀胱」といいますが、過活動膀胱では膀胱に十分尿がたまっていないのに膀胱が勝手に収縮してしまうのですぐに排尿がしたくなってしまいます。前立腺肥大症の患者さまの50~70%に過活動膀胱が合併しているともいわれています。
また、尿が出し切れず、排尿後に膀胱内に尿が残るようになってしまうと膀胱にためられる尿量が減ってしまい、結果的に頻尿になることもあります。- 排尿後症状
「残尿感」とは、排尿した後にどうもすっきりしない、尿が残っているような感じがするといった症状のことです。また、尿をすべて出しきったと思って下着をはくときに尿がタラタラと漏れて下着が汚れてしまうことがありますが、これは「排尿後尿滴下」といいます。
前立腺肥大症の診断方法
前立腺肥大症の診断は主に「症状」、「尿・血液検査」、「画像検査」によって行います。
- 国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score: IPSS)
自覚症状の程度(重症度)を評価するために世界共通に用いられている「国際前立腺症状スコア」という症状質問票を用います。排尿に関する7つの症状についてスコア化されており、患者さまが自分の症状にあてはまるところに点数をつけて、その合計点(0~35点)から症状の程度を評価します。合計点が7点以下は軽症、8~19点は中等症、20点以上は重症です。症状スコアとは別に「QOLスコア」で前立腺肥大症の症状がどれくらい生活に支障をきたしているかも同時に評価することができます。
- 直腸診
お尻の穴から指を入れ、直腸越しに前立腺の触診を行います。前立腺の大きさや硬さ、痛みの有無を調べます。前立腺に炎症があると強い痛みがあり、前立腺癌があると硬い腫瘤を触れることがあります。
- 尿検査
尿の濁りや血尿の有無などを調べます。
- 残尿測定
排尿後に膀胱内にどれくらいの尿が残っているかを測定します。排尿直後に下腹部の超音波検査を行うだけで簡単に調べることができます。
- PSA検査
PSA(前立腺特異抗原)は前立腺から分泌されるタンパクで、前立腺がんのスクリーニング検査として有用です。正常値は4.0ng/mL以下ですが、前立腺がんがあると正常値を超えて上昇してきます。
- 前立腺超音波検査
超音波検査で前立腺は淡く白い組織として描出されますが、前立腺がんが存在する場合、“がん”の場所は黒く見えることがあります。また、前立腺の大きさ(体積)を測定し、前立腺肥大があるかどうかも調べることができます。
- 排尿日誌
排尿日誌は1日24時間の「排尿した時刻」と「その時の排尿量」を記録します。排尿回数や1回の排尿量、昼夜別の尿量を正確に知ることができるため、頻尿の原因を調べるうえで非常に有用です。
前立腺肥大症の合併症
前立腺肥大があれば必ず治療が必要となるわけではなく、前立腺肥大によって生じる症状がどれくらい生活に支障をきたしているかが重要になります。前立腺肥大症は加齢とともに進行していきますが、自覚症状が軽度であれば経過観察するだけで良く、予防的に治療をする必要もありません。しかし、前立腺肥大症が進行してくると症状の悪化のみでなく、以下のような様々な合併症を引き起こすことがあります。
- 尿閉(にょうへい)
膀胱内に尿がたまっているにも関わらず、尿がまったく出せない状態を尿閉といいます。前立腺肥大が高度なほど生じやすく、多量の飲酒や風邪薬の服用などが誘因となります。
- 肉眼的血尿
前立腺肥大が高度になると尿道粘膜の充血が起こり出血しやすくなります。
- 繰り返す尿路感染症
排尿障害によって膀胱内の尿を完全に排出できなくなる(残尿量の増加)と膀胱内に侵入した細菌が排出されずに残ってしまい、尿路感染症を起こしやすくなります。
- 膀胱結石
尿路感染症と同様、排尿障害によって膀胱内の尿を完全に排出できない状態が長期間続くと膀胱内に結石ができることもあります。
- 腎機能障害(腎後性腎不全)
膀胱内に多量の残尿があったり、排尿障害のために膀胱壁が厚くなってくると腎臓から膀胱への尿の流れが妨げられ、尿が腎盂内に溜まり腎臓がはれた状態(水腎症といいます)となって腎機能が低下してしまうことがあります。
- 溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)
膀胱内に多量の残尿が存在するため、膀胱にそれ以上の尿がためられなくなって尿がチョロチョロと溢れ出てくる状態をいいます。
前立腺肥大症の治療
前立腺肥大症の治療には「薬物治療」、「手術治療」、「保存的治療」の3つがあります。
- 薬物治療
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前立腺肥大が尿の通過障害を引き起こす理由として、2つのメカニズムが考えられます。
①前立腺の平滑筋に対する交感神経の緊張が亢進して、前立腺(平滑筋)が収縮してしまい尿道が圧迫される
②肥大した前立腺が物理的に尿道を圧迫して尿の通りを悪くする
これらのメカニズムを考慮して、以下の異なる作用を持つ3種類の薬剤を使い分けます。これらのメカニズムから、異なる作用を持つ以下の3種類の薬剤が用いられてます。
α1遮断薬
前立腺平滑筋にある交感神経受容体(α1受容体)を遮断することによって、前立腺(平滑筋)の緊張を緩めて尿道の圧迫を解除します。
ホスホジエステラーゼ5阻害薬
もともと勃起不全(ED)に使われていた薬ですが、前立腺や尿道の平滑筋を弛緩させる作用を併せ持っているため、尿の勢いや頻尿などの症状が改善されます。
5α還元酵素阻害薬
男性ホルモンの作用を抑えることによって前立腺体積を縮小させます。前立腺肥大による物理的な尿道の圧迫を解除します。
- 手術治療
薬物治療で症状が改善しないような場合や上記の合併症を生じた際は手術治療が必要となります。手術方法は開腹手術ではなく、経尿道的に内視鏡を用いて肥大した前立腺を切除します。これまでは「経尿道的前立腺切除術(TURP)」という高周波電流を用いた方法が標準的でしたが、近年、機器の発達に伴い「ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)」や「レーザー光選択的前立腺蒸散術(PVP)」といったレーザーを用いた手術が行われるようになってきています。
当クリニックはロボット手術において日本トップクラスである「東京国際大堀病院」と提携しております。東京国際大堀病院では前立腺肥大症に対して「ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)」を積極的に行っており、安全かつ身体への負担が少ない手術を目指しております。- 保存的治療
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生活指導
過剰な水分摂取やカフェイン、アルコールの取り過ぎは頻尿を悪化させるので控えめにしましょう。便秘や肥満は尿漏れのリスクとなります。過剰なカロリー摂取は控え、適度な運動を行うことも重要です。
膀胱訓練
尿をなるべく我慢する訓練方法です。少しずつ排尿の間隔を延長することによって膀胱にたまる尿量を増やします。短時間からはじめて15分単位で排尿間隔を延長していき、最終的には2~3時間の排尿間隔が得られるようにします。
前立腺肥大症の患者さんによくある心配事として「前立腺がんになるのではないか」という問題がありますが、前立腺肥大症と前立腺がんとは全く別の病気であり、前立腺肥大症があることで前立腺がんになりやすくなるということは一切ありません。ただし、前立腺がんが進行すると前立腺肥大症とよく似た症状になるため、一度はPSA検査を行うことをおすすめします。
中高年の男性で「最近おしっこが近い」「おしっこの勢いがなくなってきた」「夜中にトイレで何度も起きる」などのお悩みがある場合、前立腺肥大症による症状である可能性があります。是非お気軽にご相談ください。
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